2013年10月号 「orzレイアウト」の革新性
親指シフトをMacで
Macで日本語入力するキー配列を「親指シフト(NICOLA配列)」に変えて2年半が経った。'88年以来ローマ字入力でMacを使ってきた私が'11年4月1日に親指シフトに転向した顛末は、本連載の'12年7月号で書いたとおり。今回はその後の重要な変化について書きたい。その前に、親指シフトの基本とMacで親指シフトするための諸設定を確認しておこう。
親指シフトは「かな入力」の一種である。同じ文章をローマ字入力でタイプしたときの半分近い打鍵数で済み、2倍近いスピードで日本語を入力できる。「しゃべるように書ける」と評されるスラスラ感だ。頭にある日本語の音がそのまま文字になるから、思考を妨げられず、楽なのだ。ローマ字入力してきた23年間は大いなる無駄だったと痛感する。それくらい親指シフトは効率的である。
私の周囲の大学教授や弁護士に日本語入力方法をたずねてみると、親指シフト愛好者は意外と多い。そのほとんどは20年以上前からの親指シフター。中には、Macで親指シフトできることを知らず、JISかな入力やローマ字入力に転向した人もいる。
親指シフトは'80〜'90年代に富士通から発売されていたワープロ専用機「OASYS」で採用されていたキー配列だ。日本語をたくさん入力する仕事をしている人に好んで使われてきた。私の場合はまだ2年半。親指シフターとしては新参者である。
私が教えていたロースクールの卒業生にも親指シフトを始めて1年になる者がいる。それまで自己流の指使いでローマ字入力をしていたが、私が講義で紹介した親指シフトの高効率性に引かれたのだ。ホームポジションに5本指を置き、一切キーボードを見ずに練習を始めたところ、「5日で実用レベルになった」そうだ。
私が始めたときも数日の練習で実用的に日本語入力できるようになった。モニターのフチに張っていたキー配列表を剥がしたのは18日目である。やる気さえあればハードルは決して高くないのだ。習得する早道は2つ。いったん親指シフトを始めたら、完全にものになるまで決してローマ字入力しないこと、そして絶対にキーボードを見ないことである。
必要なハードウェアはJIS配列のキーボードが付いたMac、またはJIS配列の外付けキーボード。Mac本体がUS配列のキーボードであっても、アップル純正のApple Wireless Keyboard (JIS)、PFUの「HHKB Professional JP」や「HHKB Lite 2 for Mac」をつなげば快適に親指シフトできる。私自身、ローマ字入力時代にはUS配列のキーボードを使っていたが、親指シフトに転向して以来、購入するMacはすべてJIS配列のモデルだ。
JIS配列のキーボードといっても、親指シフトはJISかな入力の文字配列とはまったく異なる。ただ「右シフト」として「かな」キーを使うためだけに、JIS配列のキーボードが必要なのだ。なお、親指シフト専用キーボードを用意する必要はない。
インストールするアプリは「KeyRemap4MacBook」。名称に「MacBook」とあるが、すべてのMacで利用可能だ。その最新版をダウンロードしてインストールし、必要な項目にチェックを入れるだけで、JISキーボードが親指シフトキーボードになる。その設定に、大きな変化があったのだ。
右に1列ずらすという発想
左シフトはスペースキー、右シフトはかなキー。これを打鍵するには文字キーと「同時押し」する。シフトキーを押しながら文字キーを押すのではなく、文字キーと全く同じタイミングで、文字通り「同時に押す」のが、親指シフトのポイントだ。
快速、快適な親指シフトだが、MacのJIS配列キーボードでタイプする場合、かなキーを右シフトに使うため、どうしても右親指が内側に屈曲する。これを回避する方法はないものか。
今年の3月、ブログ「ものくろぼっくす」を主宰する大東信仁氏によって、KeyRemap4MacBook用にまったく新しいキー配列の設定ファイル「orzレイアウト」が公開された。右手側のキー配置をすべて右に1列ずらし、空いた中央の列に最右の1列を移動させるという、一見、アクロバティックな配列だ。
当然、右手のホームポジションが1列右にずれる。右手の人差し指から小指までをKキー、Lキー、;キー、:キーに置くのだ。Kキーを打鍵するとJが入力される。
感動した。かなキーがKキーより左にあるため、右手親指が自然な位置に来る。格段に親指シフトしやすい。MacのJISキーボードでもPFUの「HHKB Professional JP」などでも、親指シフト専用キーボードのごとくまったく自然に親指シフトでタイピングできるのだ。
しかしorzレイアウトにははるかに本質的なメリットがある。JIS配列そのものの欠点まで払拭してしまったのだ。
JIS配列はUS配列よりも1列多い。その1列はリターンキーの左側に追加されている。だからホームポジションが左に寄っており、両手を置くと左右のバランスが悪い。
また本来のホームポジションに右手を置くと「return」キーが遠く、それを押すためには右に3列分、小指を伸ばす必要がある。しかし遠すぎて、ホームポジションに他の指を置いたままではリターンリターンキーを押せない。デリートキーを打つ場合にも同じ問題が生じる。結局、右手全体で飛んでいかざるを得ない。動きが大きく非効率だ。
orzレイアウトにすると、これらの問題が一挙に解消する。右に1列分ホームポジションが移動し、リターンキーに近づくからだ。左右のバランスも改善される。右手がほとんどトラックパッドにかからなくなるのだ。おかげで、MacBook AirやMacBook Proのキーボードでも快適にタイピングできるようになった。素晴らしい。
orzレイアウトを使うためには、その最新版(原稿執筆時でver. 0.162)をダウンロードし、KeyRemap4MacBookに追加することが必要だ。KeyRemap4MacBookのPreferencesの「Misc & Uninstall」にある「Open private.xml」をクリックして開いたフォルダに、解凍したorzレイアウト設定ファイルの「orz」フォルダと「private.xml」をコピーする。
KeyRemap4MacBookの「Change Key」で「ReloadXML」をクリックしたら、上の図にある11項目にチェックに入れる。さらに「ReloadXML」をクリックすれば、orzレイアウトで親指シフトできるようになる。
JIS配列のキーボードで親指シフトする際の問題点を、
親指シフトをMacで
Macで日本語入力するキー配列を「親指シフト(NICOLA配列)」に変えて2年半が経った。'88年以来ローマ字入力でMacを使ってきた私が'11年4月1日に親指シフトに転向した顛末は、本連載の'12年7月号で書いたとおり。今回はその後の重要な変化について書きたい。その前に、親指シフトの基本とMacで親指シフトするための諸設定を確認しておこう。
親指シフトは「かな入力」の一種である。同じ文章をローマ字入力でタイプしたときの半分近い打鍵数で済み、2倍近いスピードで日本語を入力できる。「しゃべるように書ける」と評されるスラスラ感だ。頭にある日本語の音がそのまま文字になるから、思考を妨げられず、楽なのだ。ローマ字入力してきた23年間は大いなる無駄だったと痛感する。それくらい親指シフトは効率的である。
私の周囲の大学教授や弁護士に日本語入力方法をたずねてみると、親指シフト愛好者は意外と多い。そのほとんどは20年以上前からの親指シフター。中には、Macで親指シフトできることを知らず、JISかな入力やローマ字入力に転向した人もいる。
親指シフトは'80〜'90年代に富士通から発売されていたワープロ専用機「OASYS」で採用されていたキー配列だ。日本語をたくさん入力する仕事をしている人に好んで使われてきた。私の場合はまだ2年半。親指シフターとしては新参者である。
私が教えていたロースクールの卒業生にも親指シフトを始めて1年になる者がいる。それまで自己流の指使いでローマ字入力をしていたが、私が講義で紹介した親指シフトの高効率性に引かれたのだ。きちんとホームポジションに5本指を置き、一切キーボードを見ずに練習を始めたところ、「5日で実用レベルになった」そうだ。
私が始めたときも数日の練習で実用的に日本語入力できるようになった。モニターのフチに張っていたキー配列表を剥がしたのは18日目である。やる気さえあればハードルは決して高くないのだ。習得する早道は2つ。絶対にキーボードを見ないこと、そしていったん親指シフトを始めたら、完全にものになるまで決してローマ字入力しないことである。
必要なハードウェアはJIS配列のキーボードが付いたMac、またはJIS配列の外付けキーボード。Mac本体がUS配列のキーボードであっても、アップル純正のApple Wireless Keyboard (JIS)、PFUの「HHKB Professional JP」や「HHKB Lite 2 for Mac」をつなげば快適に親指シフトできる。私自身、ローマ字入力時代にはUS配列のキーボードを使っていたが、親指シフトに転向して以来、購入するMacはすべてJIS配列のモデルだ。
JIS配列のキーボードといっても、親指シフトはJISかな入力の文字配列とはまったく異なる。ただ「右シフト」として「かな」キーを使うためだけに、JIS配列のキーボードが必要なのだ。なお、親指シフト専用キーボードを用意する必要はない。
Macには「KeyRemap4MacBook」をインストールする。名称に「MacBook」とあるが、すべてのMacで利用可能だ。その最新版をダウンロードしてインストールし、必要な項目にチェックを入れるだけで、JISキーボードが親指シフトキーボードになる。その設定に、大きな変化があったのだ。
右に1列ずらすという発想
左シフトはスペースキー、右シフトはかなキー。これを打鍵するには文字キーと「同時押し」する。シフトキーを押しながら文字キーを押すのではなく、文字キーとまったく同じタイミングで、文字通り「同時に押す」のが、親指シフトのポイントだ。
快速、快適な親指シフトだが、MacのJIS配列キーボードでタイプする場合、かなキーを右シフトに使うため、どうしても右親指が内側に屈曲する。これを回避する方法はないものか。
今年の3月、ブログ「ものくろぼっくす」を主宰する大東信仁氏によって、KeyRemap4MacBook用にまったく新しいキー配列の設定ファイル「orzレイアウト」が公開された。右手側のキー配置をすべて右に1列ずらし、空いた中央の列に最右の1列を移動させるという、一見、アクロバティックな配列だ。
当然、右手のホームポジションが1列右にずれる。右手の人差し指から小指までをKキー、Lキー、;キー、:キーに置くのだ。Kキーを打鍵するとJが入力される。
感動した。かなキーがKキーより左にあるため、右手親指が自然な位置に来る。格段に親指シフトしやすい。MacのJISキーボードでもPFUの「HHKB Professional JP」などでも、親指シフト専用キーボードのごとくまったく自然に親指シフトでタイピングできるのだ。
しかしorzレイアウトにははるかに本質的なメリットがある。JIS配列そのものの欠点まで払拭してしまったのだ。
JIS配列はUS配列よりも1列多い。その1列はリターンキーの左側に追加されている。だからホームポジションが左に寄っており、両手を置くと左右のバランスが悪い。
また本来のホームポジションに右手を置くと「return」キーが遠く、それを押すためには右に3列分、小指を伸ばす必要がある。しかし遠すぎて、ホームポジションに他の指を置いたままでは「return」キーを押せない。デリートキーを打つ場合にも同じ問題が生じる。結局、右手全体で飛んでいかざるを得ない。動きが大きく非効率だ。
orzレイアウトにすると、これらの問題が一挙に解消する。右に1列分ホームポジションが移動し、「return」キーに近づくからだ。左右のバランスも改善される。右手がほとんどトラックパッドにかからなくなるのだ。おかげで、MacBook AirやMacBook Proのキーボードでも快適にタイピングできるようになった。素晴らしい。
orzレイアウトを使うためには、その最新版(原稿執筆時でver. 0.162)をダウンロードし、KeyRemap4MacBookに追加することが必要だ。KeyRemap4MacBookのPreferencesの「Misc & Uninstall」にある「Open private.xml」をクリックして開いたフォルダに、解凍したorzレイアウト設定ファイルの「orz」フォルダと「private.xml」をコピーする。
KeyRemap4MacBookの「Change Key」で「ReloadXML」をクリックしたら11項目にチェックに入れる(上図参照)。さらに「ReloadXML」をクリックすれば、orzレイアウトで親指シフトできるようになる。
JIS配列のキーボードで親指シフトする際の問題点を、
親指シフトをMacで
Macで日本語入力するキー配列を「親指シフト(NICOLA配列)」に変えて2年半が経った。'88年以来ローマ字入力でMacを使ってきた私が'11年4月1日に親指シフトに転向した顛末は、本連載の'12年7月号で書いたとおり。今回はその後の重要な変化について書きたい。その前に、親指シフトの基本とMacで親指シフトするための諸設定を確認しておこう。
親指シフトは「かな入力」の一種である。同じ文章をローマ字入力でタイプしたときの半分近い打鍵数で済み、2倍近いスピードで日本語を入力できる。「しゃべるように書ける」と評されるスラスラ感だ。頭にある日本語の音がそのまま文字になるから、思考を妨げられず、楽なのだ。ローマ字入力してきた23年間は大いなる無駄だったと痛感する。それくらい親指シフトは効率的である。
私の周囲の大学教授や弁護士に日本語入力方法をたずねてみると、親指シフト愛好者は意外と多い。そのほとんどは20年以上前からの親指シフター。中には、Macで親指シフトできることを知らず、JISかな入力やローマ字入力に転向した人もいる。
親指シフトは'80〜'90年代に富士通から発売されていたワープロ専用機「OASYS」で採用されていたキー配列だ。日本語をたくさん入力する仕事をしている人に好んで使われてきた。私の場合はまだ2年半。親指シフターとしては新参者である。
私が教えていたロースクールの卒業生にも親指シフトを始めて1年になる者がいる。それまで自己流の指使いでローマ字入力をしていたが、私が講義で紹介した親指シフトの高効率性に引かれたのだ。きちんとホームポジションに5本指を置き、一切キーボードを見ずに練習を始めたところ、「5日で実用レベルになった」そうだ。
私が始めたときも数日の練習で実用的に日本語入力できるようになった。モニターのフチに張っていたキー配列表を剥がしたのは18日目である。やる気さえあればハードルは決して高くないのだ。習得する早道は2つ。いったん親指シフトを始めたら、完全にものになるまで決してローマ字入力しないこと、そして絶対にキーボードを見ないことである。
必要なハードウェアはJIS配列のキーボードが付いたMac、またはJIS配列の外付けキーボード。Mac本体がUS配列のキーボードであっても、アップル純正のApple Wireless Keyboard (JIS)、PFUの「HHKB Professional JP」や「HHKB Lite 2 for Mac」をつなげば快適に親指シフトできる。私自身、ローマ字入力時代にはUS配列のキーボードを使っていたが、親指シフトに転向して以来、購入するMacはすべてJIS配列のモデルだ。
JIS配列のキーボードといっても、親指シフトはJISかな入力の文字配列とは全く異なる。ただ「右シフト」として「かな」キーを使うためだけに、JIS配列のキーボードが必要なのだ。なお、親指シフト専用キーボードを用意する必要はない。
インストールするアプリは「KeyRemap4MacBook」。名称に「MacBook」とあるが、すべてのMacで利用可能だ。その最新版をダウンロードしてインストールし、必要な項目にチェックを入れるだけで、JISキーボードが親指シフトキーボードになる。その設定に、大きな変化があったのだ。
右に1列ずらすという発想
左シフトはスペースキー、右シフトはかなキー。これを打鍵するには文字キーと「同時押し」する。シフトキーを押しながら文字キーを押すのではなく、文字キーとまったく同じタイミングで、文字通り「同時に押す」のが、親指シフトのポイントだ。
快速、快適な親指シフトだが、MacのJIS配列キーボードでタイプする場合、かなキーを右シフトに使うため、どうしても右親指が内側に屈曲する。これを回避する方法はないものか。
今年の3月、ブログ「ものくろぼっくす」を主宰する大東信仁氏によって、KeyRemap4MacBook用に全く新しいキー配列の設定ファイル「orzレイアウト」が公開された。右手側のキー配置をすべて右に1列ずらし、空いた中央の列に最右の1列を移動させるという、一見、アクロバティックな配列だ。
当然、右手のホームポジションが1列右にずれる。右手の人差し指から小指までを「K」、「L」、「;」、「:」キーに置くのだ。「K」キーを打鍵すると「J」が入力される。
感動した。「かな」キーが「K」キーより左にあるため、右手親指が自然な位置に来る。格段に親指シフトしやすい。MacのJISキーボードでもPFUの「HHKB Professional JP」などでも、親指シフト専用キーボードのごとくまったく自然に親指シフトでタイピングできるのだ。
しかしorzレイアウトにははるかに本質的なメリットがある。JIS配列そのものの欠点まで払拭してしまったのだ。
JIS配列はUS配列よりも1列多い。その1列は「return」キーの左側に追加されている。だからホームポジションが左に寄っており、両手を置くと左右のバランスが悪い。
また本来のホームポジションに右手を置くと「return」キーが遠く、それを押すためには右に3列分、小指を伸ばす必要がある。しかし遠すぎて、ホームポジションに他の指を置いたままでは「return」キーを押せない。デリートキーを打つ場合にも同じ問題が生じる。結局、右手全体で飛んでいかざるを得ない。動きが大きく非効率だ。
orzレイアウトにすると、これらの問題が一挙に解消する。右に1列分ホームポジションが移動し、「return」キーに近づくからだ。左右のバランスも改善される。右手がほとんどトラックパッドにかからなくなるのだ。おかげで、MacBook AirやMacBook Proのキーボードでも快適にタイピングできるようになった。素晴らしい。
orzレイアウトを使うためには、その最新版(原稿執筆時でver. 0.162)をダウンロードし、KeyRemap4MacBookに追加することが必要だ。KeyRemap4MacBookのPreferencesの「Misc & Uninstall」にある「Open private.xml」をクリックして開いたフォルダに、解凍したorzレイアウト設定ファイルの「orz」フォルダと「private.xml」をコピーする。
KeyRemap4MacBookの「Change Key」で「ReloadXML」をクリックしたら、上の図にある11項目にチェックに入れる。さらに「ReloadXML」をクリックすれば、orzレイアウトで親指シフトできるようになる。
JIS配列のキーボードで親指シフトする際の問題点を、アプリで解決してしまったのだ。素晴らしき発想の転換である。